
クマの種類と構造型クマの原因
目の下に生じる「クマ」には主に3種類あります。青グマ(血行不良型)、茶グマ(色素沈着型)、そして黒グマと呼ばれる構造型クマです。
構造型クマ(黒クマ)は、皮膚のたるみや眼窩脂肪(がんかしぼう)の突出、目の下のくぼみなど目の下の構造的な影によって生じるタイプのクマです。
見た目には目の下に黒っぽい影ができ、疲れて老けた印象を与えます。
この影は実際の皮膚の色素ではなく、凹凸によって生じるものです。
- 青グマ(血行不良型):皮膚が薄く、下まぶたの毛細血管が透けて青黒く見えるタイプ
- 茶グマ(色素沈着型):摩擦などで色素沈着が起こり茶色く見えるタイプ
- 黒グマ(構造型):目の下の膨らみ(脂肪)やくぼみにより生じる陰影で黒っぽく見えるタイプ(混合型も存在)
構造型クマの直接的な原因は、下まぶたの膨らみとその下のくぼみです。
具体的には、加齢や遺伝により眼窩脂肪(眼球の下にある脂肪)が前方に突出してクマの膨らみとなり、その直下にティアトラフ(tear trough)という靭帯の引き込みによる溝が目立つことで影ができます。
さらに下まぶたの皮膚は非常に薄く(わずか1ミリ程度)脂肪や血管が透けやすいため、膨らみとくぼみのコントラストが強調され、クマが一層目立ちます。
また、加齢に伴う靭帯や支持組織のゆるみ、頬の脂肪の萎縮・下垂も一因です。
例えば眼輪筋と頬の脂肪と頬骨に繋ぎとめるティアトラフ靭帯(tear trough ligament)や眼窩下縁靭帯(ORL:orbital retaining ligament)により、下まぶたと頬の境目に段差が生じます。
この靭帯による段差(溝)の上に突出した眼窩脂肪が乗り、溝の下には萎縮した頬があるため境目がくっきりし、影ができるのです。

図1は、下まぶたの構造(ティアトラフと支持靭帯)と下眼瞼周囲の解剖を示しています。
赤線部分がティアトラフを形成する靭帯(tear trough ligamentとその延長の眼窩下縁靭帯)で、内側から中ほどまで皮膚を骨に強固に固定しています。
この靭帯によって上方の眼輪筋・脂肪組織が骨に引き留められ、下まぶたと頬に境界ができます。
靭帯の下方には、眼輪筋下脂肪(SOOF)という筋肉の下にある脂肪層があり、加齢で萎縮するとさらに境目が目立ちます。
こうした解剖学的構造の組み合わせが、構造型クマ(黒クマ)の原因となる影を作っています。

the tear trough (TT) groove, the palpebromalar groove (PMG) and the mid-cheek groove (MCG)
引用:“Recognising the key tear trough ligaments”2022
構造型クマはこのように主に解剖学的要因によって生じるため、対策として突出した脂肪を除去・移動して凹凸をなくす治療が有効です。
ヒアルロン酸注入や脂肪注入でくぼみを埋める方法もありますが、それだけでは限界があるケースでは外科的治療が選択されます。
特に眼窩脂肪の膨らみが大きい場合、次に述べる下眼瞼脱脂術が根本的な治療となります。
下眼瞼脱脂術・脂肪再配置とは

下眼瞼脱脂術とは、下まぶたの余分な脂肪を取り除いたり、適切な位置に移動させたりする美容外科手術です。
経結膜脱脂術とも呼ばれ、下まぶたの裏側(結膜側)からアプローチする方法が一般的です。
皮膚表面に傷を付けずに下まぶたの内側から切開するため、外見上は傷跡が残らないのが大きな特徴です。
皮膚を傷つけない構造型クマの術式には、脂肪除去(脱脂)と脂肪再配置(移動)の2種類があります。
経結膜脱脂(脂肪除去):
下まぶたの裏側から小さく切開し、突出した眼窩脂肪を取り除きます。
膨らみを平坦にすることで、下まぶたの影を軽減します。
皮膚を切らないので、若年者や皮膚のたるみが少ない人に向いています。
脂肪再配置:
脂肪を除去する代わりに、眼窩脂肪を下眼瞼のくぼみに移動させて固定します。
切開は同じく結膜側ですが、取り出した脂肪でそのまま目の下の溝を充填し、縫合固定または留置する点が特徴です。
これにより、膨らみを解消しつつ凹み(溝)も同時に埋めるため、目の下全体を滑らかに整えることができます。
移動した脂肪は自己組織のため拒絶反応がなく、定着すれば半永久的にボリュームを維持します。
簡単に術式の流れを説明すると、まず局所麻酔下で下まぶたの結膜に約1cm程度の小切開をします。
そこから膨らみの原因となる眼窩脂肪を露出させ、必要量を摘出または移動します。
脂肪再配置を行う場合は、骨の上のスペース(眼窩下縁周辺の骨膜上 or 骨膜下スペース)を剥離してポケットを作り、そこへ脂肪を配置します。
脂肪は糸で骨膜に縫い留めるか、場合によっては糸の一端を皮膚表面に通して結び固定することもあります。
最後に、結膜の切開創は小さいため通常縫合せず自然に閉じるのを待ち、手術は完了です。
皮膚表面の傷がないため、ダウンタイム中もメイクでカバーしやすい利点があります。
適応(どんな人に向いているか)
一般に経結膜脱脂・脂肪再配置は20~50代くらいまでの、皮膚のたるみがそれほど強くない方に適しています。
目の下の膨らみ(脂肪)が主体で、皮膚の余りは少ないケースが理想です。
皮膚のたるみが強い場合や下瞼のシワが多い場合には、経結膜ではなく経皮的(下まつ毛沿いの皮膚切開)による下眼瞼手術や皮膚の切除・レーザーによるたるみ取りを追加することがあります。
経皮的手術では外側の皮膚を切開する分、皮膚の引き締め効果がありますが、下まぶたの外反(外反転)や白目の露出(三白眼)のリスクが経結膜より高くなるため、患者の適応を慎重に判断します。
一方、経結膜脱脂のアプローチは眼輪筋や支持靭帯を温存しやすく、瘢痕によるひきつれも少ないため下瞼の形態変化が起きにくい利点があります。
下眼瞼脱脂術・脂肪再配置のポイントまとめ
- 下まぶた裏からアプローチし、皮膚表面に傷跡を残さない手術法
- 脂肪の除去のみか、再配置してクマの溝を埋めるかを症状に応じて選択
- 若年~中年で皮膚のたるみが軽度な症例に適し、根本的なクマ改善が可能
- 皮膚切開を伴わないため、術後の瘢痕や下まぶた外反リスクが小さい
- 皮膚の余りが多い場合は追加処置が必要になることもある
下眼瞼脱脂術の効果と術後経過【海外論文より】
下眼瞼脱脂術(経結膜脱脂・脂肪再配置)は高い有効性と患者満足度が海外の最新研究で報告されています。
例えば、中高年男性を対象に経結膜脱脂+脂肪再配置を行った2025年の研究では、術後平均5.7ヶ月フォローで94.1%という高い満足度が得られました。(下図3,4)

引用:Observation on the Effect of Transconjunctival Lower Blepharoplasty Combined With Orbital Fat Release in Middle‐Aged and Elderly Men, April 2025
この研究では術後に目の下の膨らみやティアトラフ、頬のくぼみが有意に改善されており、患者から見た審美的効果の高さが示されています。
さらに別の大規模調査(1152人、2304眼の症例集計)では、術後6ヶ月時点で患者の97%以上が仕上がりに満足しており、そのうち78%は「非常に満足」と回答しています。
このようにほとんどの患者で見た目の改善に対する満足度が極めて高いことが分かります。
効果の持続性(再発率)についても良好な報告があります。
上記の研究では、平均10ヶ月の経過観察で目の下の膨らみの再発はごくわずかでした。
経結膜アプローチのみの症例では外反や眼瞼下制は報告されていないケースも多く、安全性の高さが示唆されています。
- 患者満足度: 複数の研究で90~97%と非常に高く、多くの患者が見た目の改善に満足。
- 効果の持続: 再発(脂肪の再突出)は極めて少なく長期安定。ごく一部で追加修正が必要となる程度。
- 術後経過: 腫れ・内出血は比較的少なく、2週間程度で大半が落ち着く。傷が表にないため周囲にばれにくく、早期社会復帰可能。
- 見た目の改善: クマのふくらみ解消とティアトラフの溝が埋まることで、疲れた印象が大幅に改善し若々しい目元に。
デメリット・リスク(合併症と注意点)

下眼瞼脱脂術は比較的安全な手術ですが、以下のようなデメリットやリスクもあります。術前に十分理解しておくことが大切です。
- 脂肪の取りすぎによる凹み:
脂肪を過度に除去しすぎると、目の下が逆に痩せこけたようにくぼんでしまい、新たな影(クマ)を作る恐れがあります。
適量を見極め、必要に応じて脂肪再配置で調整することが重要です。若い患者では特に、将来的な脂肪萎縮も見据えて温存しすぎないよう配慮します。 - 下まぶたの下制・外反:
手術後に下瞼が下がって白目が三方向に見える状態(三白眼)になることがあります。
これは下まぶたの支持構造が弱まったり瘢痕収縮が起きたりすることで軽度の眼瞼下制(下垂)が生じるためです。
経結膜アプローチでは起きにくいものの、皮膚切開を伴うケースや高齢で組織の弾性が低下している場合にリスクが増します。
軽度であれば経過とともに改善しますが、強い場合は後述の外反同様にcanthoplasty(外眼角靭帯の吊り上げ)などが必要になる場合があります。 - 一時的な結膜炎・ドライアイ:
結膜切開や脂肪操作による刺激で、結膜の腫れやドライアイ症状が出る場合があります。
通常は1週間程度で落ち着き、一過性です。必要に応じて点眼治療を行います。 - 内出血と皮下出血斑:
瞼は血流が豊富なため、多少の内出血は避けられません。稀に強い内出血が起こると皮膚に青あざが出たり、回復に時間がかかったりします。
冷却や安静など適切な術後ケアで早期に軽快しますが、強い血腫が残るとその後の色素沈着(肌の一時的な黒ずみ)につながる可能性があります。
万一、術後に大きな血腫が生じた場合は早めに医師が排出処置を行います。 - 皮膚の色素沈着:
上記のように強い内出血が起こったり炎症が起きたりすると、炎症後色素沈着で皮膚が茶色く染まることがあります。
特に色素沈着しやすい肌質の方は注意が必要ですが、多くは時間とともに薄くなります。紫外線ケアや美白剤の外用などで経過を見ることが一般的です。 - その他の軽度な症状:
一時的なしびれ(知覚鈍麻)や一過性の粒状硬結(肉芽腫)が報告されることがありますが、いずれも自然に消失しています。
また、感染症は非常にまれで、仮に術後に感染が起きても抗生剤で治療可能です。
以上のようにデメリットやリスクは存在しますが、多くは発生頻度が低く、一時的または対処可能なものです。
熟練した術者による適切な手術デザインと術後管理によって、合併症のリスクを極力減らしながら高い満足度を得られる治療と言えます。
まとめ:構造型クマ治療のポイント
構造型クマ(黒クマ)は、目の下の脂肪の膨らみとくぼみによる影が原因で生じます。
解剖学的にはティアトラフという靭帯構造や眼窩脂肪、薄い皮膚など複数の要因が重なっており、これらに対処することが根本的な治療につながります。
眼瞼脱脂術(経結膜脱脂術)は、突出した脂肪を除去・再配置することでこの凹凸を是正し、クマを劇的に改善する方法です。
海外の最新論文でも90%以上の患者が術後の外見に満足し、効果が長期間持続することが示されています。
傷が表に見えずダウンタイムも比較的短いことから、美容初心者にとってもチャレンジしやすい施術でしょう。
一方で、術者の解剖知識と経験が要求される繊細な手術でもあるため、信頼できる美容外科専門医と十分なカウンセリングの上で臨むことが大切です。
適切な適応判断と技術により、構造型クマに対する下眼瞼脱脂術は安全かつ効果的に若々しい目元を取り戻せる治療と言えるでしょう。