はじめに:GLP-1ダイエット薬とは?

最近SNSや美容クリニックでもよく見かける「GLP-1ダイエット」。
「飲むだけで食欲が落ちた!」「何もしなくても5kg痩せた!」と話題ですが、本当にそんなに効果があるのでしょうか?
実はこのGLP-1ダイエット薬、もともとは糖尿病治療薬として開発されたお薬です。それがいま、“痩せるホルモン”として注目を集め、美容目的で使う人も急増しています。
ここでは、代表的な3剤である リベルサス(経口セマグルチド), オゼンピック(週1回注射セマグルチド), マンジャロ(週1回注射チルゼパチド) について、それぞれの臨床試験結果にもとづき体重減少効果とBMI改善効果を比較します。
この記事では、論文ベースのデータをもとに、GLP-1薬がどれだけ痩せるのか?副作用はあるのか?をわかりやすく解説していきます。
GLP-1のしくみ:どうして痩せるの?
GLP-1は体内で自然に分泌されている「消化管ホルモン」の一種です。食事をすると小腸から分泌され、
- 胃の動きをゆっくりにする
- 脳の満腹中枢を刺激して食欲を抑える
- インスリン分泌を促して血糖をコントロールする
といった作用があります。
結果として食欲が自然と減り、無理な制限なしでも摂取カロリーが減る→体重が落ちるという流れです。
GLP-1ダイエット薬の効果を論文で検証
GLP-1薬のダイエット効果は、世界中の臨床試験で証明されています。
リベルサス(経口セマグルチド)の効果
リベルサスは世界初の経口GLP-1受容体作動薬で、糖尿病治療として承認されています。注射を嫌がる患者にも使いやすい一方、体重減少効果は注射剤よりやや弱めとされています。
主な臨床試験結果は以下の通りです。
試験デザイン
PIONEER試験シリーズで効果検証が行われました。
例えばPIONEER 4試験(2019年、Lancet掲載)は2型糖尿病患者711人を対象としたランダム化二重盲検比較試験(RCT)で、リベルサス14 mgを注射GLP-1製剤のリラグルチド1.8 mgや偽薬(プラセボ)と52週間比較しています。
またPIONEER 1試験(2019年、Diabetes Care掲載)は治療歴のない糖尿病患者703人を対象に、リベルサス単独療法とプラセボを26週間比較しました。
いずれも食事・運動の指導併用下で評価しています。
体重減少効果
PIONEER 4では、26週時点でリベルサス群の体重は平均4.4 kg減少し、プラセボ群の0.5 kg減に比べ有意に大きな減量でした(差は約3.8 kg)。
同試験の52週時点でもリベルサス群は約5.0 kgの減量を維持し、プラセボ群(約1.2 kg減)より大きい減少が続いています。
BMIも改善しており、例えば試験参加者の平均BMI約31~32 kg/m2から、リベルサス14 mg群では約1~2ポイント低下しました(プラセボ群ではほぼ変化なし)と報告されています。
体重減少効果は治療開始後数週間以内に現れ始め、半年ほどで効果が安定する傾向があります。
他療法との比較
リベルサス14 mgの減量効果は、同じGLP-1作動薬であるリラグルチド1.8 mg(皮下注射)と比べてもやや大きく、26週時点で約1.2 kg多く減量しました。
一方、SGLT2阻害薬エンパグリフロジンとの比較試験(PIONEER 2)でも有効性が検証されており、体重減少はエンパグリフロジン群と同程度かそれ以上という結果が得られています。
リベルサスはいずれの試験でもプラセボ(生活習慣改善のみ)より有意に大きな体重・BMI低下を示しています。
副作用と中止率
副作用は他のGLP-1薬と同様に消化器症状(吐き気、嘔吐、下痢等)が主で、ほとんどが軽度~中等度で一過性です。
PIONEER試験ではリベルサス投与群の約5~8%が副作用により治療中止し、プラセボ群の中止率(約2%)よりやや高い水準でした。
しかし副作用は投与初期に多く現れ、徐々に軽快する傾向があります。
重大な副作用はまれですが、急激な体重減少に伴う胆石症リスクの上昇などが指摘されています。
総じてリベルサスは内服で手軽に使用でき、1年間で約5 kgの減量が見込める薬剤ですが、より強力な減量を目指す場合は次の注射製剤が検討されます。
オゼンピック(注射セマグルチド)の効果
オゼンピックは週1回注射のセマグルチド製剤で、糖尿病治療に広く使われていますが、高用量では抗肥満薬(商品名ウェゴヴィ)としても承認されています。
注射による高いバイオアベイラビリティを活かし、経口剤より強力な体重減少効果を発揮します。
代表的な試験結果は以下の通りです。
試験デザイン
肥満症を対象としたSTEP試験が有名です。
STEP 1試験(2021年、New England Journal of Medicine)は非糖尿病の肥満成人1961人を対象に、セマグルチド2.4 mg週1回注射+生活改善群とプラセボ注射+生活改善群を68週間比較した二重盲検RCTです。
参加者は平均BMI37–38で、全員に食事制限(カロリー制限)と運動の指導がなされています。
また糖尿病患者対象の試験(SUSTAINシリーズ)でも体重減少効果が解析されています。
体重減少効果
STEP 1では、68週(約1年4か月)時点の体重変化はオゼンピック2.4 mg群で -14.9%(約-15.3 kg)に達し、プラセボ群の-2.4%(約-2.6 kg)減と比べて圧倒的に大きい減量効果を示しました。
これは平均BMIの約5~6ポイント低下に相当し、例えばBMI 37の方が1年強でBMI 31前後まで改善するイメージです。
2年間フォローアップした研究によると効果の現れ方は緩徐かつ持続的で、治療開始3か月頃から明確な体重低下が見られ、約12~16か月で減量が頭打ち(プラトー)になる傾向があります。
心血管リスク因子(血圧や脂質)や肝機能指標の改善も認められ、参加者のQOL(身体機能スコア)も有意に向上しました。
他療法との比較
プラセボ(生活習慣改善のみ)と比べた場合、約3~4倍の減量率を示すことから、食事・運動療法単独では得られにくい大幅な体重減少が薬剤併用で達成できることを示しています。
他の薬剤との比較では、インスリンやSGLT2阻害薬に比べ有意に大きな減量効果がある一方、さらに強力な薬剤であるチルゼパチド(マンジャロ)には効果で劣ることが、後述の試験で示されています。
なお、オゼンピック2.4 mg(ウェゴヴィ)は対照群も含め全員が生活改善を受ける試験デザインのため、「薬剤+生活改善」対「生活改善のみ」の比較で効果が評価されています。
副作用と中止率
主な副作用は吐き気・下痢など消化器症状で、投与初期に多く見られます。
STEP 1試験ではセマグルチド群の4.5%の参加者が重めの胃腸症状により治療を中止し、プラセボ群の中止率0.8%と比べると若干高めでした。
症状の多くは一過性であり、用量を段階的に少しずつ増量する方法により忍容性が改善します。
また低血糖リスクは低く、安全性プロファイルは糖尿病患者で確立されたものと同様です。
長期投与では、減量に伴う胆嚢疾患や一部で報告されている甲状腺髄様癌のリスクなどにも留意が必要ですが、全体としてベネフィットがリスクを上回ると評価されています。
マンジャロ(チルゼパチド)の効果
マンジャロはGIPとGLP-1の二重作動薬で、2型糖尿病治療薬として開発されましたが、その卓越した体重減少効果から肥満症治療においても注目されています。
セマグルチドを上回る減量効果が示されており、近年の大規模試験結果をご紹介します。
代表的な試験結果は以下の通りです。
試験デザイン
肥満症に対するSURMOUNT試験シリーズが実施されました。
代表的なSURMOUNT-1試験(2022年、New England Journal of Medicine掲載)は、肥満または過体重(BMI≥30または27以上で併存症あり)の成人2539人を対象に、チルゼパチド5 mg・10 mg・15 mg各用量群とプラセボ群を72週間比較したランダム化二重盲検RCTです。
全群に食事制限(低カロリー食)と運動の指導を行い、効果を評価しています。
またSURPASS試験では2型糖尿病患者に対し、マンジャロと他薬(セマグルチド1 mgなど)を比較する試験も行われました。
体重減少効果
SURMOUNT-1の72週時点(約1年半)で、チルゼパチド15 mg群の体重は平均 -20.9%(約-22 kg)の減少となり、10 mg群で-19.5%、5 mg群で-15.0%と用量依存的な効果が得られました。
一方プラセボ群は-3.1%(約-3 kg)の減少に留まり、その差は圧倒的です。
BMIも大幅に改善し、例えば平均BMI 38.0の参加者が15 mg投与72週でBMI 30前後まで低下しています。
下図にSURMOUNT-1試験の結果を示します。

ルゼパチド5 mg, 10 mg, 15 mg群はいずれも有意な減量を示し、高用量ほど効果が大きい。15 mg群では**20.9%*もの減量となり、プラセボ群(-3.1%)との差が顕著である。また5%以上の減量達成率も高く、15 mg群では約91%の患者が5%減量を達成した(プラセボ群は35%)
分析によると、チルゼパチドによる減量効果は投与開始後から持続的に増大し、だいたい約60週(1年強)まで体重が減り続けた後、72週までその減量幅を維持するパターンでした。
さらに注目すべきは、多くの患者が体重の10%以上減や20%以上減といった大幅減量を達成した点です。
SURMOUNT-1では15 mg群の57%もの参加者が20%以上の体重減少を達成し、プラセボ群の3%を大きく上回りました。
心代謝指標(ウエスト周囲径、血糖値、血圧など)の改善も用量依存的に認められています。
他療法との比較
プラセボ(生活習慣改善のみ)との比較では、平均で約17~18%ポイントの差をもってマンジャロ群が優れており、現時点で単剤として最も強力な抗肥満薬とみなされています。
またSURPASS-2試験(2021年、NEJM掲載)では2型糖尿病患者に対しマンジャロとセマグルチド1.0 mgの直接比較が行われ、40週時点でマンジャロ15 mg群の体重減少がセマグルチド群より約5.5 kg大きい(-11.2 kg vs -5.7 kg程度)ことが報告されました。
この結果、チルゼパチドは糖尿病治療においてもHbA1c低下効果と体重減少効果の両面でセマグルチドを上回ることが示されています。
さらに最近の2025年に報告された最新研究では、マンジャロ(米国商品名ゼップバウンド)高用量はセマグルチド高用量(ウェゴヴィ2.4 mg)より有意に大きな減量効果を示したとの報告もあり(72週で約20.2%減 vs 13.7%減)、マンジャロの優位性が裏付けられつつあります。
以上から、マンジャロは減量効果で他の薬剤を凌駕する一方、費用や入手性も含めた総合的評価が必要です。
副作用と中止率
副作用プロファイルはGLP-1単独作動薬に類似しており、消化器症状(悪心、嘔吐、下痢など)が最多です
症状の多くは軽度~中等度で、用量漸増により耐容性が改善します。
SURMOUNT-1では治療中止率が5 mg群4.3%、10 mg群7.1%、15 mg群6.2%、プラセボ群2.6%と報告され、用量10 mgでやや中止率が高かったものの、15 mgでも約6%に留まっています。
つまり約93~95%の患者は72週間の治療を完遂できていることになります。
重篤な有害事象はまれですが、一部で膵炎のリスクや、他のGLP-1作動薬同様に甲状腺C細胞腫瘍の懸念が示唆されています(動物実験での所見に基づく注意喚起)。
しかし現在までの知見では、安全性は概ね良好で有益性がリスクを上回ると判断されています。
3剤の比較まとめ

以上を踏まえ、リベルサス(経口セマグルチド)、オゼンピック(注射セマグルチド)、マンジャロ(チルゼパチド)の体重減少効果の比較をまとめます。
減量効果の強さ
マンジャロ(チルゼパチド)が最も強力で、1年強で平均体重の15~20%減という画期的な減量を示します。
オゼンピック(セマグルチド注射)も高用量では約15%減と非常に有効ですが、マンジャロには一歩及ばない結果です。
リベルサス(セマグルチド経口)は約5%前後(数kg程度)の減量に留まりますが、内服薬としては従来の肥満治療薬を上回る効果と言えます。
したがって効果の強さはリベルサス < オゼンピック < マンジャロの順になります。
BMI改善効果
3剤ともBMIを有意に低下させますが、その程度は体重減少率に比例します。
リベルサス14 mgではBMIが約1~2ポイント下がるのに対し、オゼンピック2.4 mgでは5~6ポイント、マンジャロ15 mgでは7~8ポイントもの大幅な低下が期待できます。
例えばBMI35の肥満患者の場合、リベルサスで約33、オゼンピックで30前後、マンジャロでは27前後まで改善する計算です。
高度肥満ほど絶対減量幅も大きくなりやすいですが、相対的な減少率としては上記の通りです。
効果発現までの時間と持続
いずれの薬剤もゆるやかに減量が進行し、数か月で明らかな効果が現れます。
リベルサス内服は比較的早期(半年ほど)で頭打ちになり、減量幅も小さいためその後は維持期になります。
オゼンピックやマンジャロは1年程かけて徐々に減量し、その後プラトーに達します。
治療を継続する限り効果は持続しますが、中止すればリバウンド(体重再増加)が起こりやすい点には注意が必要です。
しかし、2025年の欧州肥満学会(ECO 2025、スペイン・マラガ、5月11~14日)で発表される新たな研究によると、
72週間マンジャロ治療を受けたSURMOUNT-1試験の参加者の約3分の2は、マンジャロによる治療開始から3年後も、いわゆる最低体重(nadir)からわずか5%以下の体重増加にとどまっていたことが示されています。
今後ますます、GLP-1ダイエットがリバウンドしにくいという研究報告が出てくることを期待しましょう。
副作用と安全性
3剤とも副作用プロファイルは類似しており、消化器症状(悪心・嘔吐・下痢・便秘など)が中心です。
副作用は効果が強い薬剤ほどやや高まる傾向があり、実際に治療中止率もリベルサスで5%、オゼンピックで4-5%、マンジャロで5-7%と報告されています。
多くの場合、副作用は一時的であり慎重な用量調節で対処可能です。
低血糖のリスクは単独では低く、心血管アウトカムも有望とされます(セマグルチドは心イベント抑制効果も示唆)。
ただし妊娠中の使用は避ける、甲状腺髄様癌やMEN2のある患者には禁忌など、安全使用のための注意事項が共通して存在します。
まとめ:GLP-1薬を使う前に知っておきたいこと
GLP-1ダイエット薬は、科学的にも効果が証明された「痩せる薬」です。
とくに食事制限や運動が苦手な人にとって、体質改善の一歩となる可能性もあります。
リベルサス・オゼンピック・マンジャロはいずれも肥満治療に有効ですが、効果の強さと投与経路・コストに違いがあります。
リベルサスは手軽な経口薬として中等度の減量に有用で、
オゼンピックは週1回注射の負担を許容できれば大幅な減量(約15%)が期待でき、
マンジャロは現時点で最大級の効果(20%前後減量)を示すものの注射や副作用管理も必要となります。
それぞれの患者さんの状況(肥満の程度や併存疾患、注射への抵抗感、経済的負担許容度など)に応じて適切な薬剤を選択し、生活習慣の改善と併せて総合的な肥満治療を行うことが重要です。
一方で、副作用や体質に合うかの問題、安全な使用法の重要性も忘れてはいけません。
また、GLP-1は継続して使えば非常に効果が高いものの、中止後は食欲が戻る可能性があるためリバウンド防止の工夫が不可欠です。
美容目的で使う場合も、自己判断せず、必ず医師と相談して使うことが大前提です。