“地中海式食事(MD)と超低カロリーケトジェニックダイエット(VLCKD)は、体重や体脂肪の減少に効果的であり、特に短期的な目標において、異なる時間経過で同様の結果をもたらす”*タイトル
Mediterranean Diet versus Very Low-Calorie Ketogenic Diet: Effects of Reaching 5% Body Weight Loss on Body Composition in Subjects with Overweight and with Obesity—A Cohort Study
*著者、雑誌名、公開年
Claudia Di Rosa, et al., International Journal of Environmental Research and Public Health, 2022
- 研究背景と目的
肥満や過体重の健康リスクを減少させるため、地中海式食事(MD)と超低カロリーケトジェニックダイエット(VLCKD)の効果と5%の体重減少達成までの期間を比較しました。
- 方法と結果
VLCKD群では1ヶ月で、MD群では3ヶ月でそれぞれ5%の体重減少を達成。ウエスト径と体脂肪減少率はMD群の方が優位に改善された。
- 考察と結論
短期間での体重減少には超低カロリーケトジェニックダイエット(VLCKD)が有効ですが、持続可能性の観点からは地中海式食事(MD)が推奨され、2つの食事法の組み合わせが健康的な体重管理に貢献する可能性があります。
本記事は「【ダイエットの研究】地中海式食事と低カロリーケトジェニック食で5%体重を減らすにはどちらが良い?」
ということで痩せるための正しい食事方法に関して2022年のイタリアの研究報告をもとに確認しいきましょう。
研究背景 〜肥満は世界で問題に〜
肥満や過体重は、糖尿病や心臓病などのリスクを高め、健康に多大な影響を及ぼします。世界的に肥満は増加傾向にあり、効果的な体重管理方法が求められています。
現在、19億人以上の成人が太りすぎ(overweight)であり、そのうち6億5000万人が肥満(obesity)に苦しんでいます。
太りすぎと肥満は、ボディマス指数(BMI)に基づいて分類されます。 BMIが25.0~29.9の場合は太りすぎ、BMIが30を超える場合は肥満と判断されます。
いくつかの文献では、体重が5%減少すると健康状態が改善する可能性があることが示唆されており、この5%という値は減量介入の目標基準としてよく設定されています。
たとえば、2017年のワシントン大学の研究で、40名の肥満の方を対象に減量(n = 20名)療法または体重維持(n = 20名)療法に分けて体重減少が身体に与える影響を分析しました。
すると、5%の体重減少が多臓器 (脂肪組織、肝臓、骨格筋) のインスリン感受性、β細胞機能、および心臓代謝疾患の複数のリスク要因を改善することが示唆されました。
本研究では、地中海式食事(MD)と超低カロリーケトジェニックダイエット(VLCKD)の2つの異なる食事法が、体重減少や体組成にどのように影響を与えるかに焦点を当てています。
研究目的
この研究の目的は、地中海式食事(MD)と超低カロリーケトジェニックダイエット(VLCKD)の効果を比較し、それぞれのダイエットが5%の体重減少を達成するためにどれだけの期間を要するか確認することです。
体脂肪や体組成への影響を明らかにし、適切な減量戦略を調べることが目指されています。
地中海式食事とは?
2010年、地中海式食事(MD)はユネスコの無形文化遺産に登録されました。この栄養学的アプローチは継続しやすい食事法と考えられています。
どのような食事かというと、地元の果物や野菜、全粒穀物、豆類、ナッツや種子、青魚、卵、白身肉、乳製品を多く摂取し、赤身肉や加工肉の摂取を控え、適度な量の食事を摂ります。
また、地中海食では、適切に水分とり、調味料としてエキストラバージンオリーブオイルを多用し、家でご飯と作りながら、家族や友人との社交的に食事をとることがすすめられています。
定期的な身体活動、リラクゼーション、休息をとることも地中海式のライフスタイルです。
地中海式食事では、他の西洋食などと比較して、食物繊維を多く含む食品を多く摂取するため、食後の満腹感が高く、血糖負荷が低くなります。
地中海式の食事に関する2016年のレビュー論文によると、低カロリーの地中海食は、12か月以上の観察で低脂肪食よりも大きな体重減少(平均 4.1~ 10.1kgの体重減少)を示しましたが、他の食事(低炭水化物食やカロリー制限食)と比較すると体重減少は同程度でした。
他の疫学研究では、地中海食に従う地中海諸国では、米国や北欧の人口と比較して寿命が延び、疾病率が低下していることが観察されています。
地中海食は減量の維持に役立つだけでなく、心血管リスク因子、認知機能、気分にも有益な効果があるのです。
超低カロリーケトジェニック食とは?
一方、ケトン食は、1日30~50g以下の炭水化物を摂取することを特徴としています。
炭水化物欠乏によりグリコーゲン貯蔵が枯渇するため、体は糖新生とケトン生成を通じて体と脳にエネルギー源を供給するために代謝変化を起こします。
このプロセスを通じて、ケトン体(KB)(アセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸、アセトン)が生成され、ミトコンドリアを持つ細胞とすべての臓器、特に脳によって主要なエネルギー源として使用されます。
このケトーシス状態は「生理的ケトーシス」と呼ばれ、糖尿病によるケトアシドーシスと混同してはいけません。
なぜなら、ケトン食の場合、ケトン血症はpHに変化がないまま最大7~8 mmol/Lに達するのに対し、糖尿病ケトアシドーシスの場合、ケトン血症は20 mmol/Lを超え、同時に血液pHが低下する(<7.3)からです。
ケトン食の摂り方も様々あり、例えば等カロリーケトジェニックダイエット(IKD)、低カロリーケトジェニックダイエット(LCKD)、超低カロリーケトジェニックダイエット(VLCKD)などがあります。
超低カロリーケトジェニックダイエット(VLCKD)は、1日あたり700~800 kcal未満、炭水化物 30~50 g(30 g 未満が望ましい)、および脂肪30~40g(主にエキストラバージンオリーブオイル由来)を摂取する食事です。
VLCKDでは微量栄養素やオメガ 3 脂肪酸を補給する必要があり、短期間(8~16 週間)のみにするのが望ましいです。
加えて、VLCKD から標準食への移行は段階的に、かつ十分に管理された状態で行われるべきです。
2014年のスペインの研究によると、超低カロリーケトジェニックダイエット(VLCKD)を行うことで2ヶ月で13.6 ± 3.9kg、12ヶ月で19.9 ± 12.3kg体重が減少しています。
他の文献でも、VLCKD により除脂肪体重を維持しながら、体重、BMI、ウエスト周囲径、脂肪量(特に内臓脂肪)が大幅に減少することがわかっています。
VLCKDで得られる結果は、同じ期間に他の栄養プロトコル(超低カロリー食、低カロリー食、低脂肪食)で得られる結果より優れているようで、
イタリア内分泌学会は、肥満、高トリグリセリド血症、2型糖尿病に伴う肥満、高血圧の患者、急速かつ大幅な減量が必要な患者に対する効果的な食事療法としてVLCKDを推奨しています。
ただ、VLCKDをしてはいけない場合もあるので、患者を医学的監視下に置いた上で行うべきでしょう。
VLCKDは、1型糖尿病、心血管または脳血管疾患、重度の肝不全および腎不全、痛風発作、腎結石、電解質異常、精神疾患、妊娠中および授乳中の女性には禁忌です。
研究方法
この研究では、268人の肥満または過体重の成人が参加し、地中海式食事(MD)群と超低カロリーケトジェニックダイエット(VLCKD)群に無作為に分けられました。
VLCKD群は1ヶ月、MD群は3ヶ月間それぞれの食事法を継続し、体重や体脂肪、ウエスト周囲径の変化を毎月計測しました。
MD群は1日約1500〜1700kcalで、バランスの取れた栄養を摂取する食事でした。
食事の主要栄養素の組成は、タンパク質15%、脂質30~35%、炭水化物 50~55%、単糖類は15%未満で、
食事は、男女ともに1日5食(朝食、昼食、夕食、および 2 回の間食)でした。
食事内容は、野菜、全粒シリアル、魚、豆類、白身肉をよく食べ、赤身肉、卵、乳製品は週1回に減らすよう求められました。
間食には、フルーツや低脂肪ヨーグルトを摂取し、調味料としてエキストラバージンオリーブオイルを1日30mL(女性)~40mL(男性)摂取するよう勧められました。
一方、VLCKD群はカロリーを700〜800kcal以下に制限し、1日30g未満の炭水化物を摂取するプロトコルに基づきます。
タンパク質の量は、女性と男性でそれぞれ1.2~1.5 g/kg理想体重として計算し、食事は、女性の場合は1日4回、男性の場合は1日5回でした。
食事内容は、朝食と間食は食事代替品、昼食と夕食は白身または赤身の肉、魚、卵、スモークサーモン、ハム、または缶詰の魚と野菜のサイドディッシュです。
男性、女性ともに1日30gのエキストラバージンオリーブオイルを調味料として使用することが許可され、サプリメントとして標準的なマルチビタミン、重炭酸塩、ミネラル (カリウム2000mg、マグネシウム375mg)、およびオメガ3 脂肪酸 (1g) が処方されました。
研究結果
超低カロリーケトジェニックダイエット(VLCKD)では1ヶ月間で体重が7.21%減少、地中海式食事(MD)では3ヶ月で7.68%減少し、両者ともに5%の減少目標を達成しました。
また、ウエスト周囲径、体脂肪率の減少においては、地中海式食事(MD)が超低カロリーケトジェニックダイエット(VLCKD)より効果的であることがわかりました。
MDとVLCKD から得られた結果を比較すると、
MDグループでは、ウエスト周囲径が-6.86 ± 3.3 cmであったのに対し、VLCKDグループではウエスト周囲径が-5.74 ± 2.07 cmと、1cmほどMDグループの方がウエストは細くなり、
体脂肪率は、MDグループが-3.15 ± 2.49、VLCKDグループは-2.17 ± 2.14とMDグループの減少率が高くなることが観察されました。
さらに、地中海食では、超低カロリーケトジェニック食よりも、全身水分率 (2.27 ± 1.96% vs. 1.58 ± 1.61、p = 0.0017) および除脂肪体重率fat-free mass percentage(2.89 ± 3.08 vs. 2.23 ± 1.99、p = 0.0373) がアップしました。
ただし、それぞれの項目について、VLCKDグループが1ヶ月の食事介入であったのに対して、MDグループが3ヶ月の食事介入であったことに留意が必要である。
考察
この研究のメインとなる目的は、2つの異なる食事療法で少なくとも体重の5%を減らすという目標を達成するために必要な時間を評価することでした。
この結果、1 か月の超低カロリーケトジェニックダイエット(VLCKD)と3 か月の地中海式食事(MD)によって達成されたことがわかりました。
地中海式食事(MD)は肥満や代謝・心血管疾患などの生活習慣病予防と健康管理に有用な栄養療法であり、患者の食事遵守率と満足度が高いことはさまざまな研究で示されていますが、
今日では、特に体重減少に対するその即効性から、超低カロリーケトジェニックダイエット(VLCKD)がさらに人気となっています。
しかし、超低カロリーケトジェニックダイエット(VLCKD)は長期的続けるには身体に負担が大きく、地中海式食事(MD)への段階的な移行が必要であることを覚えておくことが重要です。
したがって、これら2つの栄養療法を組み合わせることが、健康的にそして継続的に体重管理をするための良い戦略となるでしょう。