“適切なエネルギー設定と治療プロトコルを用いることで、肌の色が黒いFitzpatrick皮膚タイプIV~VIの患者において、安全かつ効果的な脱毛治療が可能である。”
*タイトル
“Laser and Light Treatments for Hair Reduction in Fitzpatrick Skin Types IV–VI: A Comprehensive Review of the Literature”
*著者、雑誌名、公開年
Rachel A. Fayne, Marina Perper, Ariel E. Eber, Adam S. Aldahan, Keyvan Nouri
American Journal of Clinical Dermatology, 2017
- 研究背景と目的
Fitzpatrick皮膚タイプ(FST)IV~VIの患者において、従来のレーザー脱毛が高い副作用リスクのため制限されてきた問題を解決するため、最新のレーザーおよび光技術による脱毛の安全性と有効性を評価。
- 方法と結果
長波長のNd:YAGレーザーやダイオードレーザーなどを中心に、複数の臨床試験や比較研究を分析。これらの技術により、FST IV~VI患者で50%以上の脱毛効果と最小限の副作用が確認された。
- 考察と結論
適切な治療プロトコルの下、色素沈着や火傷などのリスクを最小化しながら、高メラニン含有肌でも長期的な脱毛効果が得られることを示し、安全性と有効性の両立が可能であると結論付けた。
こんにちは!医療脱毛にいくと、肌の色が黒いからといって断られることがありますよね?
今回は、肌の色が黒い人を対象にレーザー脱毛やIPL(光脱毛)の効果や安全性を調査した2017年のアメリカのレビュー論文を解説します。
結論としては、肌の色が黒い人でも脱毛の効果を得ることはできるんです!
今回紹介する研究では、どのような脱毛の機械でどれくらいの脱毛効果が得られたのかなど、
気になる情報が盛りだくさんなので、ぜひ最後までご覧ください!
研究背景 〜暗い肌タイプに脱毛できる?〜
レーザーや光を使った脱毛治療は1990年代後半に登場し、特に肌の色が明るい人に効果的とされてきました。
しかし、肌が濃いFitzpatrick皮膚タイプIV~VIの人々に対しては、メラニンの多さが光の吸収を妨げ副作用のリスクが高まるため、治療の安全性と有効性が十分に検証されていません。
この論文は、FST IV~VIの患者でも適切な治療プロトコルを用いれば安全で効果的な脱毛が可能であることを検証しています。
研究方法 〜FST IV〜VIを含む研究をレビュー〜
この論文では、2016年7月にPubMedを使用して、Fitzpatrick皮膚タイプIV~VI(FST IV~VI)の患者を対象にした脱毛治療に関する英語の論文を検索しました。
- 検索条件:
キーワードには「hair removal」「laser」「light」「Nd」「diode」「alexandrite」「IPL」などが使用されました。 - 選定基準:
- 試験にFST IV~VIの患者が含まれていること。
- ランダム化比較試験(RCT)、臨床試験、比較研究が対象。
- 症例報告や少人数(5人未満)の研究は除外。
最終的に、以下の構成で32の研究が選定されました:
- ランダム化比較試験(RCT):6件
- 後ろ向きデータ分析:4件
- 比較研究:6件
- その他の臨床研究:16件
研究結果 〜安全かつ効果的に脱毛できる!〜
分析対象となった32の研究では、特に長波長のNd:YAGレーザー(1064nm)が肌の色が黒めの患者において安全かつ効果的であると示されました。
例えば、ある研究では、9回の治療で平均54.3%の脱毛効果が得られ、副作用の発生率は14%(軽度の色素沈着や一過性の症状)でした。
具体的に各デバイスにおける研究結果をまとめると以下のようになります。
Nd:YAGレーザー(波長 1064nm)
- 特長:
- 最も長い波長(1064nm)を持つため、深い毛根に到達しやすく、色素沈着リスクが少ない。
- 高いメラニン含有量の肌でも比較的安全に使用できる。
- 結果:
- Rao and Sankar(2011年):9回の治療で54.3%の毛量減少。
- Nanda and Bansal(2010年):6~8回の治療で68.7%の患者に50%以上の減毛効果が確認。
- 副作用:
- 軽度の色素沈着(14%)や一時的な熱傷が一部で見られるが、全て治癒。
ダイオードレーザー(波長 810nm)
- 特長:
- 波長が中間(810nm)で、到達するレーザーの深さはNdより浅いが、アレキサンドライトより深い。
- 反復照射や低フルエンス技術で安全性が向上。
- 結果:
- Barolet(2012年):4回の治療で平均48.15%の毛量減少(6か月後)。
- Royo et al.(2011年):5回の治療で50~74%の減少が全体の59.5%で確認され、最大で90%の減少例も。
- 副作用:
- 一部で軽度の火傷や色素沈着が確認されたが、全て一時的。
アレキサンドライトレーザー(波長 755nm)
- 特長:
- 波長が短め(755nm)で、メラニン吸収が高いため効果が出やすいが、FST IV~VIでは副作用のリスクが増加。
- 冷却システムを併用することで安全性が向上。
- 結果:
- Lu et al.(2011年):5回以上の治療で最大90%の毛量減少。
- Kutlubay(2009年):3回以上の治療でFST Vでは平均61%、FST IVでは75%の毛量減少。
- 副作用:
- 特にFST V~VIで色素沈着や一時的なやけどのリスクが高い。
Rubyレーザー(波長 694nm)
- 特長:
- 最も短い波長(694nm)を持つため、メラニンへの吸収が非常に高く、FST IV~VIでは副作用のリスクが高い。
- 結果:
- Elman et al.(2000年):6~12回の治療で70~80%の毛量減少。
- 副作用:
- 色素沈着や火傷の頻度が高く、FST IV~VIではあまり推奨されない。
IPL(インテンスパルスライト)
- 特長:
- 広範囲の波長(通常400~1200nm)を持ち、波長フィルターで調整可能。
- 一般的に安価で、家庭用デバイスも普及。
- 結果:
- Trelles et al.(2010年):4回の治療で72%の毛量減少が確認され、6か月後には平均87%減少。
- Mohanan et al.(2013年):3~6回の治療で、66%の患者が76~100%の毛量減少を報告。
- 副作用:
- 一部で軽度の色素沈着や軽いやけどが見られたが、全て一時的。
デバイス間の比較研究
本レビュー論文において、脱毛デバイス間の比較研究は6つ含まれていたが、効果と安全性に関してどのデバイスが最も優れているか明らかなパターンは見つからなかった。簡単に内容を確認していくと、
3つの研究で、Nd:YAGレーザーがIPLよりも優れた脱毛効果を示したが、うち1つの研究でしか統計的な有意差は述べられていなかった。
さらにIPL単独の研究では、IPLによる脱毛で大きな副作用は認めなかったが、Nd:YAGレーザーとIPLの比較研究では、IPL施術では色素沈着ややけどによる水疱形成のリスクがあるかもしれないと述べられているものもあった。
1つの研究で、ダイオードレーザーがIPL及びNd:YAGレーザーよりも高い効果を示した。
1つの研究で、アレキサンドライトレーザーとダイオードレーザーがNd:YAGレーザーよりも高い効果を示した。ただし、副作用についてはNd:YAGレーザーが最も少なく、アレキサンドライトレーザーが最も多かった。
1つの研究で、アレキサンドライトレーザーはダイオードレーザー及びNd:YAGレーザーよりもとても優れた効果を示した。
各デバイスごとの効果と安全性まとめ
デバイス | 毛量減少率 | 安全性(FST IV~VI) | 副作用の主な内容 |
---|---|---|---|
Ndレーザー | 50~70% | 高い | 軽度の色素沈着、一時的な熱傷 |
ダイオードレーザー | 50~90% | 中~高 | 熱傷や色素沈着のリスク |
アレキサンドライト | 40~90% | 中程度 | 色素沈着、熱傷 |
Rubyレーザー | 70~80% | 低い | 色素沈着、熱傷 |
IPL | 72~87% | 中程度 | 色素沈着、熱傷 |
まとめると、安全性の観点から考えるとNd:YAGレーザーが推奨されますが、脱毛効果の点ではダイオードやアレキサンドライトレーザーの方が高いという報告が見られています。
脱毛デバイス間の比較でも、統計的に明らかな効果や安全性の差はみられておらず、施術を行う際の出力調整や照射技術も重要な要素であります。
患者の皮膚タイプやニーズに応じて最適なデバイス・出力を選択することが重要です。
結論と考察 〜個人的にはNd:YAGから開始おすすめ〜
FST IV~VIの肌の色が濃い患者では、肌のメラニンが光を吸収しやすいため、熱傷や色素沈着のリスクが高まることが課題でした。
しかし、本レビュー論文により、長波長のレーザーや低フルエンス(出力エネルギー)の使用、適切な冷却システムを組み合わせることで、これらのリスクを低減しながら高い脱毛効果が得られることが確認されました。
私の個人的な見解としては、まずはNd:YAGレーザーの取り扱いのあるクリニックで3-5回施術を受け、効果が乏しければダイオードレーザー、ついでアレキサンドライトレーザーやIPLを試してみるのが良いかと思います。
本研究は、肌の色が濃い人々にも安全で効果的な脱毛治療を提供できる可能性を示し、これまで治療対象から除外されてきた患者層に新たな選択肢を提示しています。
また、美容医療がより多様なニーズに対応するための科学的根拠を提供しています。
この研究の限界としては、対象とした文献の多くが少人数の患者を対象にしている点や、長期的な副作用のデータが不足している点が課題です。
また、機器やプロトコルの詳細が統一されていないため、結果の一般化には限界があります。
今後の大規模な臨床研究を楽しみにしましょう。